稲森 英彦 Hidehiko INAMORI
プラナ松戸治療室代表
【略歴】
東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒。
1998年に鍼灸師資格を取得後、心療内科に勤務。
2005年に自律神経系・心療内科系鍼灸院のプラナ松戸治療室を開設。
現在(2024年)臨床歴26年。
自律神経、内臓、骨格を整える鍼灸治療です。
ストレス性疾患、過呼吸、動悸、吐き気、めまい、頭痛、喉のつまり感、不眠、慢性的な首・肩・腰の痛み、慢性疲労、原因不明の不妊症、目の疲れ・痛みなどに。
現代医学、東洋医学、心理学の視点から総合的な健康相談をご提供いたします。
詳細はコチラプラナ松戸治療室の症例集です。めまい、息苦しさ、動悸、頻尿、聴覚過敏、不妊症、首の痛みなど。
詳細はコチラご予約、ご相談、ご質問などはこちらのフォームをご利用下さい。
世の中にはたくさんの人がいます。 人間関係を築くときに、ある人とはすぐに打ち解けることができるのに、 別のある人とはうまく打ち解けない場合があります。これは何故でしょうか。
じつはここにも自我状態がかかわっています。たとえば山登りをしているときに、ぁー、素敵な景色だなー」とあなたが感動しているときに、 友人が「ほんとに素敵ねー」と言ってくれればコミュニケーションは保たれます。これを「相補的交流」といいます。
しかしそこで友人が「ここは標高1500メートルで、かつて松尾芭蕉も登山したことで有名な……。」などと言われたら興ざめしてしまいます。これはあなたがCの自我状態のときに、友人がAで返した例です。これを「ズレのある交流」といいます。
このようにコミュニケーションにはお互いの自我状態によって、スムーズに行く場合と行き違いになる場合があります。 代表的な交流パターンを3つ紹介します。
FC⇔FC :「大好き」⇔「私も好き」
A⇔A :「あれは何という山ですか」⇔「御嶽山です」
CP⇔CP :「今度の新人は仕事が遅くて困ったものだな」⇔「まったく困ったものです」
A. ズレのある交流
FC⇔A: 「このお肉美味しいっっ!」⇔「松坂牛は不飽和脂肪酸が豊富であり…。」
B. 交叉的交流
FC⇔CP: 「この前観た映画サイコーだったなー」⇔「そんな暇があったら、子供を見てて!」
C. 裏面的交流
A⇔A/社会的交流(CP⇔AC/心理的交流): 「お隣のご主人はボーナス100万円だそうよ。2階のご主人も150万円だって。」 ⇔「…」
原則1.ベクトルが平行であればコミュニケーションは持続する。
原則2.ベクトルが交叉するとコミュニケーションは中断する。
原則3.裏面的交流は心理的交流を見極めることでコミュニケーションが成り立つ。
このように私たちのコミュニケーションには、自我状態によってスムーズに行く場合とうまくいかない場合があります。相補的で愛情のある交流が、私たちの人間関係を豊かにしていくのです。
自我とは、私たちが感じたり、考えたり、行動するときのもとになる心の状態のことです。私たちの自我は、いくつかのパートで複合的に構成されています。ここでは自我の3つのパートを説明します。親の自我状態”P”、大人の自我状態”A”、子供の自我状態”C”です。
私たちが子供の頃に、両親をはじめとした周りの大人たちから取り入れた「親」的な情報です。親の自我状態は”P”で表します。Pには2種類あって、父親的なPと母親的なPがあります。父親的なPをCP(Critical Parent)といい、「~すべき」、「~しなければならない」という考え方が特徴です。母親的なPをNP(Nurturing Parent)といい、同情的、養育的、保護的な考え方が特徴です。
CPの例
・ どんな理由があっても、規則は守らなければならない。
・ 男は男らしく、女は女らしくしなければならない。
・ 出世のためには、何事も我慢しなければならない。
キーワード:厳格、理想、良心的、批判的、避難的、道徳的、教育的、自律的、権威的
NPの例
・ あまり無理をしないでね、あなたはかけがえのない人なんだから。
・ わたしに任せておいてね。
・ お疲れではないですか?ちょっと休まれてはいかがですか?
キーワード:親切、面倒見が良い、寛容、思いやり、保護、養育、甘やかし、おせっかい
ある状況に対して冷静に判断し、どうしたらよいかを導き出す考え方です。これまで経験してきたことなどを総動員して、最も適切な行動はなにか、その可能性や結果の予測をします。大人の自我状態は”A”表します。理性的な思考をするパートであり、批判的なPやわがままなCの調整役となる重要なパートです。
Aの例
・ 賛否両論を聞いてみましょう。
・ このような考え方があるが、その根拠はなんだろう。
・ お客様からクレームが来たが、今後の改善に役立てよう。
キーワード:理性的、論理的、合理的、客観的、判断的、冷静、分析的、知性的
幼い頃の考え方です。子供の自我状態には2つあります。自由な子供”FC”(Free Child)と従順な子供”AC”(Adapted Child)です。FCは本能的で感情的、直感的、積極的、活動的、創造的、のびのびとした考え方します。しかしその反面、わがままで自己中心的、抑制がきかないパートです。
ACは成長過程において親から何か要求があったときに、その愛情を失わないために身に付けてきた反応様式です。抑制的で順応的、過剰適応、消極的、依存的です。相手から嫌われないために自分の感情を抑制しますから、ストレスが溜まります。いわゆる「いい子」に多い思考様式です。
FCの例
・ わぁ、スゴイ!
・ かっこいい!!
・ 大好き!!
キーワード:感情的、直感的、積極的、朗らか、創造的、衝動的、わがまま、自己中心的
ACの例
・ どちらでもいいよ。
・ 分からないな。
・ 別に。
キーワード:過剰適応、抑制、我慢、妥協、消極的、協調、主体性の欠如、いい子、反抗
このように私たちの自我は3つのパートに分かれていて、またそれを細かくみると5つのパートに分けることができます。私たちはパートナーシップを築くときに、これらの自我状態を使い分けているのです。しかし問題はひとによって自我状態に偏りがあることです。
例えば、FCが低くてAC・CPが高いと、人間関係の中で自分を責めることが多くなります。そのためにうつ病やパニック障害などの疾患に罹りやすくなるのです。このケースでは、FCを高めることで感情を表現し、疲労やストレスに向き合えます。またNPを高めることで、自分自身をいたわることができるようになります。
高いCPは完全主義思考になりやすく、社会的な規範や価値観に縛られて身動きができなくなり、精神的に追い込まれることがあります。
冷静で現実的、かつ合理的な判断を下すAが強すぎても、自分の感情や情緒に意識が向きにくくなります。そのために心身症などに罹りやすくなるのです。
FCやACといった子どもの自我状態が強くなり過ぎても、幼児性が強まり過ぎて、他者への依存性や自己中心的な態度になることがあります。つまりそれぞれの自我状態のバランスが大切なのです。
パートナーシップとは、2名以上の人々の協力関係、共同関係をいいます。 私たちを取り巻く社会、家族、友人、恋人、親戚、職場などの人間関係は、 すべてパートナーシップがかかわっています。
適切なパートナーシップが築かれると、そこにはお互いを尊敬し合い、 助け合うような人間関係が生まれます。 和やかで温かい、和気あいあいとした協力関係です。
一方、適切なパートナーシップが築かれなかった場合、 支配するものとされるものという、パワー・ストラグル(権力闘争)が生じやすくなります。 争いの耐えない、殺伐とした冷たい関係です。
「無関心」という場合も協力関係が築けません。 無関心の深層心理は、人と関わらないことで自分が傷つかないようにしているのです。 放任主義などがこれにあたります。
パートナーシップの問題で、当治療室でとりわけ目立つのは夫婦間の問題。 夫が支配的で妻がそれに従い、 妻が心身ともに疲労して病気になってしまうケースです。 また最近では職場の人間関係に馴染めずに、 うつ病やパニック障害などを病むケースも増えています。
そして親が子供を支配するケース。 一時期「毒親」という言葉がはやりました。 親が子供を支配して、子供の人生を狂わしてしまうケースです。 親が子供を支配するやり方は多様で、 過保護、放任主義、残酷な言葉で傷つける、 直接的な暴力、性暴力などです。
このように育てられた子供は、共通して愛情不足になります。 そして親の愛情を渇望している子供は、親の言いなりになったり、 自己献身的な行動を取るようになります。
このような子供は成長しても 学校や職場でうまく人間関係を作れません。 それは親との関係を別の人たちにも投影してしまい、 依存的な関係を作ってしまうからです。
ですからパートナーシップ、人間関係をうまく作れない場合、 自分自身がどのように振るまっているかを知る必要があります。 自分を知ることによって、人間関係を改善させる糸口になるのです。