稲森 英彦 Hidehiko INAMORI
プラナ松戸治療室代表
【略歴】
東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒。
1998年に鍼灸師資格を取得後、心療内科に勤務。
2005年に自律神経系・心療内科系鍼灸院のプラナ松戸治療室を開設。
現在(2024年)臨床歴26年。
自律神経、内臓、骨格を整える鍼灸治療です。
ストレス性疾患、過呼吸、動悸、吐き気、めまい、頭痛、喉のつまり感、不眠、慢性的な首・肩・腰の痛み、慢性疲労、原因不明の不妊症、目の疲れ・痛みなどに。
現代医学、東洋医学、心理学の視点から総合的な健康相談をご提供いたします。
詳細はコチラプラナ松戸治療室の症例集です。めまい、息苦しさ、動悸、頻尿、聴覚過敏、不妊症、首の痛みなど。
詳細はコチラご予約、ご相談、ご質問などはこちらのフォームをご利用下さい。
老化は生物としては基本的に抗えないものですが、近年の研究によって老化には炎症が関わっていることが明らかにされてきました。これを「炎症老化」といいます。
そして炎症老化をコントロールすることでアンチエイジングが可能なことが示唆されています。
また近年、若者のがんの発生率が世界的に高まっていますが、その背景にも若者の老化の加速が関係しているといわれており、これにも炎症が関係していると考えられています。
鍼灸治療には抗炎症作用があり、このような炎症老化にも一定の効果が期待できます。今回は炎症老化と鍼灸治療の抗炎症作用についてまとめます。
炎症老化(インフラマエイジング)とは、加齢に伴って発生する慢性的な炎症が、老化に関連するさまざまな生理的変化や疾患を促進する現象を指します。この用語は「inflammation(炎症)」と「aging(老化)」を組み合わせたもので、老化の過程において慢性に続く炎症が、細胞機能の低下や組織の損傷を引き起こすことを示しています。
慢性的な炎症:加齢に伴う生理的変化が原因で、体内で持続的な炎症が発生します。これは、感染や損傷に対する免疫反応が過剰になり、自己の組織を攻撃することにも繋がります。
生理的変化:炎症老化は、体内のさまざまな細胞や組織に影響を与え、特に免疫系における機能低下や、代謝異常、心血管疾患、認知症などの加齢に関連した病気を引き起こす要因となります。
系統的影響:慢性炎症は、多くの加齢関連疾患(例:アルツハイマー病、心疾患、糖尿病)に共通する病理的基盤と考えられており、症状が多様であるため、さまざまな体の部位に影響を及ぼします。
炎症老化のメカニズムには以下の要素が含まれます。
老化細胞の蓄積:加齢に伴い、老化した細胞(セノサイト)が増加し、これらは炎症性サイトカインを分泌します。このサイトカインが他の細胞に炎症反応を引き起こすことにより、さらに炎症が悪化します。
遺伝的および環境的要因:遺伝的な predisposition や生活習慣(食事、運動、ストレスなど)が慢性炎症の発生に寄与します。特に、肥満や喫煙は炎症を助長する要因とされています。
細胞間相互作用:マクロファージなどの免疫細胞は、炎症の調節において重要な役割を果たします。特定のマクロファージのサブタイプは、炎症を促進するか抑えるかで老化に影響を与えます。
炎症老化は、加齢を避けられない現象として広く認識されており、適切な生活習慣や医学的介入がこれを管理する手段として研究されています。
鍼灸の抗炎症作用は、近年の研究によってそのメカニズムが明らかになりつつあります。この治療法は、身体に鍼を刺すことによって局所的な反応を引き起こし、炎症を抑えるための効果が期待されています。
鍼灸治療における抗炎症作用は、過剰な炎症反応を抑えることに寄与します。炎症は免疫システムの一部であり、通常は感染や怪我の治癒に役立つものですが、慢性炎症は健康に悪影響を及ぼす可能性があります。鍼灸は、これらの慢性炎症を軽減し、身体の自然治癒力を促進することを目的としています。
鍼灸が持つ抗炎症作用の正確なメカニズムはいまだ完全には解明されていませんが、いくつかの研究が重要な要素を示唆しています。
1. 神経機構の役割:2021年に発表された研究によると、鍼刺激は迷走神経を介して炎症反応を抑える効果があるとされています。迷走神経は自律神経系の一部で、身体のさまざまな機能を調整します。
2. サイトカインの調節:鍼灸治療は炎症性サイトカインの放出を調整することが示されており、これが抗炎症作用に寄与しています。炎症性サイトカインは免疫系の反応を調整する物質で、これを適切に調節することが炎症を軽減する鍵となります。
3. 血流の改善:鍼灸による刺激は局所的な血流を改善し、炎症が発生している部位への酸素や栄養素の供給を増加させることも、抗炎症メカニズムの一部と考えられています。
炎症老化は、加齢に伴う慢性的な炎症が、さまざまな生理的変化や疾患を促進する現象であり、老化の一因とされています。これに対して、鍼灸治療は抗炎症作用を通じて、慢性炎症を抑制し、老化の進行を遅らせる可能性があります。
実際に当治療室で鍼灸治療を20年ほど継続されている来年で90代になるお二方は、実年齢よりも10歳若く、肉体的にも精神的にもしっかりされています。
今後アンチエイジングに鍼灸治療が注目されていくと考えています。
近年、世界的な若年層でがんの発生率が増加していることが明らかになっています。日本でも生涯で二人に一人ががんに罹患するといわれていますが、その大きな原因は高齢化で、50代以上になるとがんが急激に増加します。しかし最近の研究で50歳未満の若者にがんが増えています。その理由をみていきましょう。
1990年代以降、世界的に多くの地域で、50歳未満のがん患者数が増加していることが明らかになっています。発症率、死亡率ともに最も増加しているのは乳がんで、発症率の伸びが最も大きいのは上咽頭がんと前立腺がんです。死亡率が高い上位4種のがんは、乳がん、気管・気管支・肺のがん、胃がん、大腸がんでした(ダイアモンドオンライン)。
発展途上国が豊かになるにつれて、欧米式の食生活やライフスタイルが取り入れられるようになります。
1990年から2019年にかけて、ブラジル、ロシア、中国、南アフリカなどの高中所得国では 15歳から39歳のがん罹患率が高所得国に比べて大幅に増加しました。
超加工食品、甘い飲み物、アルコールなどの欧米式の食生活が取り入れられることで、若年層のがんの増加につながっていると考えられています。
特に超加工食品はマイクロバーム(ヒトの体に寄生する微生物)の働きを変化させることが知られています。マイクロバームは体内でビタミンを生成し、免疫システムを調整し、食べ物の消化を助け、私たちの健康に寄与しています。
しかし超加工食品はマイクロバームを変化させて病原性を有するようになります。14種類の早期発症がんのうち、消化器に関わる8つがマイクロバームが関係してるといわれています(フォーブスジャパン)。
超加工食品(Ultra-processed foods)とは、主に工業的な加工を経て作られた食品のことを指します。これらの食品は、通常の食材に対して、多くの添加物や化学的に改変された成分が含まれており、一般的には次のような特徴があります(フォーブスジャパン)。
超加工食品とは、糖分、塩分、脂肪を多く含み、硬化油、添加糖、香味料、乳化剤、保存料などの添加物が加えられている食品です。これらの食品は、自然の状態から遠く離れた形で提供されるもので、栄養価が低い一方で、味に強い刺激を持つことが多いです。
添加物の使用:超加工食品には多様な添加物が使用されており、これには香料、着色料、乳化剤などが含まれます。
栄養価の低さ:通常、これらの食品は栄養成分が少ないため、健康へのリスクが懸念されます。特や糖尿病などのリスク因子となることがあります。
工場的製造:これらの食品は、工場で製造されるため、手作りの料理とは異なり、確認できない多くの成分が含まれることがあります。
超加工食品の一般的な例としては、以下のような食品が挙げられます。
以上のように若年層におけるがんの増加は、主に欧米式の食生活の普及と関連していると考えられます。特に超加工食品の消費が、消化器系を中心としたがんの発症リスクを高める要因として注目されています。
このような生活習慣の変化が、若年層の健康に深刻な影響を及ぼしているため、食生活の見直しと健康的な食事の普及が重要であると考えられます。
なお超加工食品の他にも、果物や野菜不足、高血糖、アルコール、喫煙、肥満、運動不足、環境汚染なども若者のがんの増加に影響していると考えられ注意が必要です。
梅雨が明けて暑い夏がやってきました。夏は湿気と共に暑さ対策が欠かせません。
今回は夏の養生法、過ごし方をまとめます。
日本の夏は確実に暑くなってきています。東京の6月から9月の平均気温をみてみると、1901~1920年の20年分の平均値では26度を超えた日は1度もありませんでしたが、2001~2020年では26度を上回った日が4カ月間の半分を占めます。
また昨年2023年は暑い日が2001~2020年の平均値よりも多く、残暑も長引きました。最高気温では30度以上が5月17日から9月28日までに90回あり、1年間のおよそ4分の1が「真夏日」か「猛暑日」だったことになります(東京新聞)。
ここ100年で東京の夏は2.7度上昇し、1990年代後半以降は顕著に上昇しています(ウェザーニュース)。
このように日本の夏は確実に暑くなっているのです。
このように夏の気温が上昇してしまうと、昔言われていたような養生法は当てになりません。
「冷房を使ってはいけない」などがその代表ですが、東洋医学や自然療法が好きな方の中には、いまだにこのような養生法を信仰している方もいます。
しかし時代が変わり気象条件も変わっていくのですから、養生法もそれに合わせてアップデートする必要があります。
当然冷房は使うべきで、必要な水分を摂りながら過ごすことが大切です。一般的な熱中症対策を取るべきです。
もちろん冷やしすぎることはよくありませんが、その場合は足湯などで冷えを取りましょう。
夏は呼吸器に負担がかかります。体に汗腺のない犬は口でハアハアと呼吸(パンティング)をしながら体内の熱を調整していますが、外気に熱気と湿気が高い夏は呼吸器に大きく負担がかかります。
人間の場合は呼吸の他に、汗腺からの発汗で体温調整が可能です。しかし呼吸器が弱い体質の方は健康な方に比べて、体力を消耗してダルさや疲れを感じやすくなります。
また呼吸器と共に働く腎臓の弱い方、また心臓の弱い方も夏は厳しい季節です。食欲が低下してダルさを感じる、いわゆる夏バテを起こしやすくなります。
以下に夏の養生法をまとめます。
・冷房を使い適切な室温の中で過ごす。
・涼しい環境の中で体を動かし、汗を出して放熱する。
・汗はしっかり拭う。
・発汗した分の水分と塩分はこまめに補給する。
・冷たい飲食を控える。
・食べ過ぎない。
・日中の外出時は日傘、帽子、サングラスは必携。
・一日の終わりに湯船に浸かり発汗させる。
夏の養生法の要点は、熱気と湿気対策です。
涼しい環境で発汗させて熱を体内に籠らせないこと、
そして発汗した分の水分と塩分を摂ることが大切です。
体を動かすことに関しては、スーパーやショッピングモールなどの
管理された室温の中で、歩いたり階段を昇降するなどがいいでしょう。
梅雨同様、腎臓や呼吸器の弱い方、加えて心臓の弱い方は蒸し暑さに弱いです。
養生法を上手に取り入れながら夏を乗り切ってください。