患者さんから「腎が弱いとはどういう意味ですか?」と質問されることがあります。検査データを持参して、「腎機能は正常ですけど」とおっしゃる方もいます。東洋医学の「腎」概念と現代医学の腎臓とはどのような関係にあるのでしょうか?
「腎」とは腎気を指す
東洋医学では人体を肝・心・脾・肺・腎の五蔵に還元して表現します。この五蔵の中の「腎」とは「腎の気」を指しています。「気」というのは臓器や組織などの背景に働いている力で、「気」がないと各臓器や組織は正常に働きません。
「腎が弱いとは」腎気が働く腎グループの弱り
「腎気」は次の組織や臓器に強く働いています。すなわち腎臓、膀胱、生殖器、腰下肢、骨、骨髄、脳脊髄、耳、毛髪などです。また腎気は寿命や成長を司っています。「腎」とはこれら腎気が強く働くグループの総称であり、現代医学の腎臓を直接指しているわけではありません。ですから「腎が弱くなっている状態」とは、腎気が弱っていることであり、その影響を受けている各組織や臓器の働きが悪くなっている状態をいいます。
「腎」の弱りの程度によって医学データに出る場合と出ない場合がある
腎気が弱って現れる症状は腰痛、下肢がだるい、頭が働かない、疲れやすい、耳が詰まるなどですが、この状態ではまだ医学データには出てきません。いわゆる機能性疾患の状態です。しかし腎気がさらに弱ると腎炎、膀胱炎、子宮疾患、難聴などの形で医学データにも現れてきます。いわゆる器質性疾患になるのです。
「腎」は生命力を司る「気」
以上のように東洋医学の「腎」とは、現代医学の腎臓も含んだ「腎気」が強く働く組織や臓器のグループの総称であり、「腎」の弱りの程度が軽ければ機能的な、強ければ器質的な疾患が現れてきます。
肝腎要というように、「腎」は成長や老化などの生命力を司る大変重要な「気」であり、「腎」の弱りは他の四蔵にも大きな影響を与え多様な症状が現れてきます。また「腎」は一度弱らせると回復させるのに時間がかかります。「腎」を弱らせた原因を改善しながら、焦らずじっくりと腰を据えて治療していくことが大切です。