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人間関係がうまくいかない理由【パートナーシップ心理学講座⑥最終章】

6. 「何故人生で同じ問題を繰り返すのか?」Ⅱ ―脚本分析―

人生で同じ問題を繰り返す理由に「脚本」と呼ばれるものがあります。これは幼少期に身に付けた基本的態度の上に構築されるものです。この脚本は人生の大切な場面、たとえば仕事を選ぶ、結婚、育児、事業拡大の決断、退職、死に方などで、私たちの行動を左右する強い力を持っています。

脚本とは、私たちが幼少期に親や周囲の人々によって影響されて発達し、そしてその後の人生経験によって強化され固定化された、いわば人生の青写真なのです。私たちはこの脚本によって、無意識に人生を脚本どおりに過ごしています。ですから同じ間違いを繰り返すのです。私たちはこの無意識の脚本を意識化することで、脚本に縛られない新たな人生を創造することができます。

(1)脚本のストーリー

1)禁止令幼少期に味わった親からの不合理な態度や苦痛が子供の潜在意識に刷り込まれ、その後の人生に大きな影響を与えます。ここではそのようにして刷り込まれた「禁止令」と呼ばれる子供の信念を紹介します。

A.生きてはいけない
親からの虐待、ネグレクト、親の不幸を子供の責任だとする言動、親の自殺などは子供に「生きてはいけない」というメッセージを植えつける。

B.男(女)であってはいけない
男子は兄弟喧嘩を過度に禁じられたり、木登りなどの冒険を禁止される場合。
女子は「女は損よ」「男の子だったら良かったのに」などといわれた場合。

C.生活を楽しんではいけない一家団欒を経験できなかった場合、仕事中毒の父親、教育ママなどによって。

D.成長してはならない
「小さいからまだ無理よ」、「お母さん反抗してはいけない」、子供の冒険を禁じる、大きくなっても母親が子供にべったりなどで。

E.成功してはいけない
「お前はなにをやってもだめだな」、「そんなことをやっているとお父さんのようになるわよ」、何事も中途半端で終わらせる親や事業に失敗した親の姿。

F.実行してはいけない
冒険や試行錯誤して身に付けることを禁止した場合。「お前は必ず壊すからいじってはダメ」、「危ないからナイフで鉛筆を削ってはいけません」など。消極的な人間になる。

G.重要な人間になるな
いつも抑えられて自己主張ができない家庭。「お前にそんな難しいことができるわけがない」など。

H.みんなの仲間になってはいけない
親が非社交的な場合、「ああいう人たちと付き合ってはダメよ」、「あんな子をうちに連れてこないで」など。

I.信用してはいけない、愛してはいけない
離婚、別居、交通事故、病気などで幼少期に親を失う体験。複数の養育者に育てられた子供。「男を信用してはいけません」などの教育。

J.健康であってはいけない
病気になったときだけ親に大事にされた子供、親が病弱、親が何度も入院するなど。

この他にも、考えてはいけない、感情を表現してはいけないなどの禁止令があります。また「~しなさい」という脚本があり、禁止令に対して「拮抗禁止令」と呼ばれます。以上みてきたように、パートナシップの根幹には「自我状態」がかかわっていて、それは幼少期に親などの養育者との関係によって作られます。

養育者から愛情を十分に得られないと感じた子供は心が傷つき、自分をダメな人間だという信念を身につけてしまいます。それが他者に対して依存的な態度や威圧的な態度、あるいは自分の無価値感からくる絶望を基本的態度としてしまうのです。

その基本的態度がパートナシップをつくるときに障害になります。無意識的で不毛な「ゲーム」を演じ、家庭や職場などの社会生活において同じ問題を繰り返してしまうのです。また養育者からの不合理な信念が無意識に刷り込まれ、人生の重要な場面で問題が生じるような人生の青写真である「脚本」をつくってしまいます。

このような心の無意識層にある信念を変えるには、まずそれに気づくことです。そしてそれを受け入れます。さらにその信念を変容させる行為をすることです。そのことによって変化はゆっくりであっても、確実に変わっていきます。

しだいに「ゲーム」や「脚本」の呪縛が解けるのです。より良いパートナーシップを築き、自由でポジティブな人間関係や新たな人生の脚本を生み出すことができるようになるでしょう。

参考文献
1.中村延江、田副真美、片岡ちなつ 『初学者のための 交流分析の基礎』 金子書房、2012年。
2.イアン・スチュアート 『最新 交流分析』 深沢道子監訳、実務教育出版、1991年。
3.杉田峰康 『交流分析のすすめ』 日本文化科学社、1990年。

人間関係がうまくいかない理由【パートナーシップ心理学講座⑤】

5. 「何故人生で同じ問題を繰り返すのか?」Ⅰ ―無意識の行為「ゲーム分析」―

私たちの人生で、何故か同じ間違いを繰り返してしまうことがあります。たとえば上司、あるいは部下と必ず争いが起こる、友人と仲良くなると必ず仲たがいする、異性に必ず裏切られる、あるいは裏切る、大事な仕事のときに限って必ず朝寝坊する、責任ある仕事の前には必ず体調を崩すなどです。これらは幼少期に私たちが身に付けた基本的信念と関係があります。そのメカニズムをここで紹介します。

(1)ゲーム分析

否定的なストロークを受けて育った子供は、とても繊細で傷つきやすくなります。ですから自分を守るためにある態度を身に付けます。その態度を守りながら、これ以上傷つけられないように人生を過ごしていくのです。この態度を心理学で「ゲーム」といいます。代表的なゲームを5つ紹介します。

A.自閉

自分の生き方に自信がない場合に、自分の部屋や空想に引きこもるという形で自分を守ります。人とのストロークを拒絶しています。

B.儀式

一般的な挨拶、習慣、家庭行事などを通して、人と深入りしない程度の付き合いで人生を過ごす態度です。人と最低限のストロークの交換があります。不信感の強い子供が大人の質問に対してイエス・ノーだけで返事をするのもこの態度です。

C.活動・仕事

肯定的なストロークの交換に自信がない場合に、社会的な活動を通してストロークの交換を得る態度です。子供は勉強に異常に集中してトップの成績を収めたり、大人は仕事中毒になったりします。

D.暇つぶし・雑談

感情レベルの深いストロークの交換を避けるために、当たり障りのない会話に終始します。かなり会話量は多いものの、心の深い部分には触れません。

E.心理的ゲーム

感情の深い部分にも及ぶような親密な交流を求めながら、否定的なストロークを交換します。最後に決まって不快感で終わります。

【その他のゲームの例】
・仕事で最後に必ず大きなミスをする。
・わざと人から怒られるようなことを言う(する)。・よく失業する。
・仕事の期日を必ず延期する。
・結婚の直前で破談にする。
・繰り返しトラブルや事故を繰り返す。
・よく遅刻をする。

ゲームは最後には不快感が残るのが特徴です。それはゲームの裏側に「私はダメな人間だ」という信念があり、そのことを相手に承認させることで、自分の存在価値を認めさせようとしているからです。

子供の頃に肯定的なストロークを得られなかったために、肯定的なストロークの代わりに否定的なストロークを求めるようになります。ですから最後は決まって不快感が残るのです。

子供にとって親の愛は欠かせないものです。子供は親からスキンシップや温かい言葉、眼差しなどの肯定的なストロークを得られないと感じると、親からの愛を得ようと別の戦略を立てます。それがオネショや怪我をするなどで親の注意を引くことなのです。

たとえそのことで親から叱られたとしても、子供は自分の存在を親から認めてもらったと感じます。このようにして子供は、いろいろな問題を引き起こしたり、非建設的な人間関係を築くような癖をつけていくのです。これがゲームの原型になります。

このように最後には不快感しか残らないゲームを続ける理由は、最終的には「自分は分かってもらえて幸せになれる」とい魔術的な思い込みがあります。つまりは親の愛情を得るための補償行為なのです。

(2)ゲームを止めるには

このようなゲームを止めるには、まずゲームの存在を知ることです。その上で自分自身がゲームを演じないようにコミュニケーションのあり方を身に付けます。また相手から挑発してくるゲームにも意識的になり、それに乗らないことが大切です。そのポイントを以下にまとめます。
1.Aの自我状態が重要。
2.交叉的交流を用いる。
3.ポジティブストロークを心がける。
4.ゲームに巻き込まれていると思ったら、適当なところで切り上げる。

パートナーシップ心理学講座最終章「何故人生で同じ問題を繰り返すのか?」Ⅱ ―無意識の人生脚本―につづく。

人間関係がうまくいかない理由【パートナーシップ心理学講座④】

4. 親の愛情と性格形成 ―ストローク―

(1)親からのストロークと身に付ける信念

PACのバランスが良いと、基本的には人生が生きやすくなります。人間関係が良好になりますし、自分のやりたいことにも積極的に取り組めるからです。人生の場面々々に適切な自我状態で対応することができます。

Aで冷静に仕事に対応し、Pで子供や部下を育てます。また余暇にはCで子供のように楽しむことができます。しかし多くの場合、エゴグラムには偏りがあります。これはなぜでしょうか。これには親との関係が大きく影響しています。

私たちの自我が芽生えるのは大体2歳位です。そして3歳位までには、私たちの性格の骨格が出来上がるといわれています。ですから生後3歳まではバランスの良い人格を育てるのに非常に大切な時期といえます。

この頃の子供はとても不安定です。特にお母さんがいつも側にいて、スキンシップや言葉かけ、あるいは微笑みや優しい眼差しを向けることが必要です。このような相手の存在や価値を認める刺激を「ストローク」といいます。

子供は肯定的なストロークを親から受けることで、「自分は愛されている」「自分には価値がある」と感じることができます。そして自分に自信を持つことができるのです。このような子供は「自分はOK」「相手もOK」という自他に対する信頼の基礎になる「基本的信頼」を身に付けます。これがPACをバランスよく育てていく礎になります。

ところが親の愛情が十分でなく、否定的なストロークを受け続けると、子供は「自分は愛されていない」「自分には価値がない」と感じてしまいます。そうすると子供は、親の愛情を得るために自分の本当の気持ちを抑えることで、親の愛情を求めるようになるのです。

このような子供は①「自分はOKでない」「相手はOK」、②「自分はOK」「相手はOKでない」、③「自分はOKでない」「相手もOKでない」という信念を身に付けます。このような信念がPACのアンバランスを生んでいくのです。

(2)肯定的ストロークと否定的ストロークをまとめると以下のようになります。

◆肯定的ストローク

なでる、抱きしめる(身体的)、微笑む、ほめる、よく聴く(言語的)、勉強なんてできなくてもいるだけでいい(無条件)、勉強できるから好き(条件つき)

◆否定的ストローク

殴る、つねる、仕事を与えない(身体的)、悪口を言う、嘲笑する、欠点を非難する(言語的)、存在自体が嫌、何も良いところがない(無条件)、遅刻する君はだめだ、勉強しない子は良くない、言うことを聞かないから嫌い(条件つき)

(3)否定的なストロークを受けた子供が身に付ける信念と、それがその子をどのような態度にさせるかを以下にまとめます。

①「自分はOKでない」「相手はOK」の信念

劣等感、憂鬱、自己卑下、幸せな人が許せない、支配的、権威的なもの(地位、名誉、金)への憧れ、権威・支配者への依存。

②「自分はOK」「相手はOKでない」の信念

支配的、疑い深い、人を嘲笑する、人を切り捨てる、攻撃的、責任転嫁、反社会的、野心的。

③「自分はOKでない」「相手もOKでない」の信念

無価値感、絶望感、虚無感、愛情や他者からの注目を拒否する、殻に閉じこもる、愛情をしつこく確かめる。

以上のように、親の愛情は子供の他人に対する信頼感に大きな影響を与えます。親から否定的なストロークを受けた子供は、自分をダメな人間だと思ってしまいます。その信念のために成長した後も、他者に対して依存的になったり、威圧的になったり、また自己の無価値感から人生に対して絶望してしまうのです。

しかしこのような信念を身に付けていたとしても、人は変わることができます。それにはまずそのような信念を自分が身に付けていることに気づくことが大切です。多くの場合それらの信念は無意識となって思考や行動に現れます。無意識にやっていることですから変えることはできません。無意識の信念を意識化したときにはじめて変えることができるのです。

「何故人生で同じ問題を繰り返すのか?」Ⅰ ―無意識の行為 ゲーム分析― につづく。

 

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代表プロフィール

稲森 英彦 Hidehiko INAMORI

プラナ松戸治療室代表

【略歴】
東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒。
1998年に鍼灸師資格を取得後、心療内科に勤務。
2005年に自律神経系・心療内科系鍼灸院のプラナ松戸治療室を開設。
現在(2024年)臨床歴26年。

アクセス

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千葉県松戸市日暮3-10-10 カーザ日暮505
TEL 047-301-9015
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