稲森 英彦 Hidehiko INAMORI
プラナ松戸治療室代表
【略歴】
東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒。
1998年に鍼灸師資格を取得後、心療内科に勤務。
2005年に自律神経系・心療内科系鍼灸院のプラナ松戸治療室を開設。
現在(2024年)臨床歴26年。
自律神経、内臓、骨格を整える鍼灸治療です。
ストレス性疾患、過呼吸、動悸、吐き気、めまい、頭痛、喉のつまり感、不眠、慢性的な首・肩・腰の痛み、慢性疲労、原因不明の不妊症、目の疲れ・痛みなどに。
現代医学、東洋医学、心理学の視点から総合的な健康相談をご提供いたします。
詳細はコチラプラナ松戸治療室の症例集です。めまい、息苦しさ、動悸、頻尿、聴覚過敏、不妊症、首の痛みなど。
詳細はコチラご予約、ご相談、ご質問などはこちらのフォームをご利用下さい。
私たちの体は一年を通して拡張と収縮という変化を見せる。
簡単に言えば春になると体は開き、冬に向かうに連れて閉じる。今の時期に桜が満開になるように、私たちの頭蓋骨、胸郭、骨盤なども緩み開くのである。自然界と同じく、陰陽のリズムを見せるのだ。
しかしそれは「気」の流れが正常な体の場合である。気の流れが正常だと、内臓を含む全身が適度に温まっていて、骨格筋も柔軟でしなやかな状態にある。このような体であれば季節による開閉のリズムに体が対応し、一年を通して身体機能が正常に働いて健康的な生活ができるのである。
ところが気の流れが悪く滞っているような場合は、自然のリズムに相応せず体調が悪くなる。このような季節による変化に対応するために体はある反応を示す。それが炎症反応である。
今の季節は花粉症で苦しんでいる方も多いだろう。花粉症はⅠ型アレルギーに分類される鼻の炎症だが、東洋医学では「肝」との関連が深い疾患である。
「肝」は食べ過ぎや飲み過ぎと関係するが、精神的ストレスとも大きく関わる。また目の酷使も「肝」の気の流れを悪くする。
「肝」に問題がある人の体を診ると、多くの場合肝臓が腫れていて、首が異常に硬くなってる。首が硬くなっているということは、「気」が上半身に集中していることを示していて、一種の「のぼせ」状態なのである。
実は花粉症というのは、鼻に炎症を起こさせて鼻水を大量に排泄することで、体の上部に滞っている「気」や飲み過ぎや食べ過ぎで溜まった「邪気」を排泄する反応なのである。
花粉症を通して肝臓の腫れや首の硬さが緩むと気が下丹田に落ち着き、緊張が緩み全身が温まる。正常な「気」の流れに近づくことで、柔軟性を取り戻すのである。
つまり花粉症は花粉が原因なのではなく、それは誘因であって真の原因は「のぼせ」ている体にあるのだ。
これは花粉症だけではなくカゼなども同様で、カゼもウイルスを利用して炎症を起こさせることで体を回復させる現象なのである。喘息やアトピー性皮膚炎、関節リウマチなどもこの例に漏れない。
炎症は体が正常に戻ろうとする反応であるから、特別な場合を除いてむやみに抗炎症薬で炎症を抑えることは危険ですらある。
アトピー性皮膚炎でステロイドを使用して皮膚の炎症を抑えたら喘息になったということが時折起こるが、これは体が他の部位で炎症を起こしてバランスを取ろうとする現象と理解することができる。
ところで漢方薬や鍼灸は臓腑を整えて邪気の排出を促したり、別の形で体外に出すことができるので、使用することはむしろ好ましい。
したがって例えば花粉症が起きている場合は、なるべく抗炎症薬を使わないで経過させ、症状が辛い場合は漢方薬や鍼灸などの気の流れを整える方法を使うと良い。
そして食べ過ぎや飲み過ぎ、特に化学調味料や添加物などの摂取を見直したり、頑張り過ぎや執着を手放したり、パソコンやスマホなどを控えて目を休めるといった「肝」に負担をかけない生活を心掛けることが大切なのである。
なぜなら炎症とは私たちの生活習慣に問題があることを体が訴えている反応だからだ。体の声に耳を傾け問題点を改善することで、体が自然の内にある陰陽のリズムを取り戻すことができるのである。
東洋医学のテキストである『黄帝内経』では、季節による脈の変化を次のように表現している。
春の日には浮かぶ。これは魚の波に在りて游(およ)ぐの如く。
夏の日には膚(はだ)に在り。ひろびろとして万物に余り有り。
秋の日には膚に下る。蟄虫まさに去る。
冬に日には骨に在り。蟄虫周密にして君子は室に居る。
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今季節は春めいてきているが、患者さんたちの脈はすでに春の脈を打っている。
春の脈とは皮膚表面にまで脈が浮かび、『黄帝内経』ではまるで魚が波の中で活発に泳いでいるようだと表現されている。これは気温が高まるにつれて、体内の陽気が高まってきていることを示している。
血管を体表面に浮かすことで熱を放散させ、熱を体内に篭らせないようにしているのだ。
私たちの体は太陽と地球の関係によって変化しており、つまり宇宙と呼応しているのである。
もしこの季節に冬の脈、つまり脈が骨まで沈んでいるとすれば、
その人は体が冬の状態であり、体がとても冷えていることを示している。
血管を体内に沈めることにより、体熱を温存しているのだ。
このような場合、何かしらの原因で宇宙と呼応していないと診ることができる。
脈診は私たちが宇宙と呼応しながら生きているかどうかを診ることができるのである。
また脈診では五臓六腑の診断や邪気のある部位を診断する。
宇宙と呼応していない体には、さまざな気の滞りや気の不足があるからだ。
そのような状態を現す病脈には28脈ある。
鍼灸治療においては、鍼を一鍼下すたびに変化する五臓の状態や邪気の移動などを脈でリアルタイムにモニターしながら治療を進める。さらに治療前と治療後の脈の変化によって予後の見立ても行う。
このように東洋医学の脈診とは、宇宙との呼応状態や体内の気の状態を知る上で非常に重要な診断法なのである。
毎日のように清原和博氏の薬物使用の事件が報道されている。元巨人軍のスターが起こした事件だけに世間の注目を浴びているが、現役時代にも薬物を使用していたとの証言も出てきており、今後さらに波紋は広がっていきそうである。
問題は我々が思う以上に世の中に薬物が広まっていることであろう。そしてそれを安易に使用してしまうことである。特に若者は興味本位から容易に手を出してしまうようである。
ところで鍼灸院では薬物中毒の治療を行うことがある。一般的に鍼灸というと肩こりや腰痛、膝痛、五十肩などの運動器疾患で利用する人が多いだろう。もう少し知識のある人は不妊や逆子のために鍼灸治療を利用されるかもしれない。
このような傾向は日本独特のもので、欧米で鍼灸治療というと運動器疾患だけでなく、精神面のケアや手術後の疼痛コントロール、悪阻の軽減、月経痛などに積極的に利用されている。そして現代医学でも治療法が確立されてない薬物中毒のケアにも応用されているのである。
WHO(世界保健機関)の鍼灸適応疾患の中でも薬物中毒が認定されており、またアメリカの厚労省に当たるNIHの「パネルによる鍼に関する合意声明」(NIH Panel Issues Consensus Statement on Acupuncture, 1997.)でも薬物中毒に対して鍼治療が肯定的に捉えられている。
プラナ松戸治療室でも過去に数症例だけ経験したことがあるが、結果は概ね良好であった。内容は覚せい剤の後遺症や危険ドラッグによる胃腸障害、抗精神薬のオーバードーズによる後遺症などである。
鍼灸治療は薬物中毒に対しても一助になるのである。
ところで、これら薬物を使用した人々に共通するものとして、心の寂しさがあった。自分を認めてもらいたいが故に、友人からの薬物使用の誘いを断れなかったり、自分を見失いながら生きて行く中で、そのストレスを解消するために薬物に手を出すのである。心の闇を埋める手段が薬物であった。
つまり薬物中毒は身体面のケアだけでなく、心のケアも不可欠なのである。