自律神経は体の働きをコントロールしている
自律神経は循環、呼吸、消化、発汗・体温調節、内分泌機能、生殖機能、代謝など、意識ではコントロールできない体の働きをコントロールしています。自律神経には交感神経と副交感神経があり、双方のバランスで生体機能の恒常性を保っています。
自律神経の乱れで多様な症状が出る
自律神経は精神とも密接に関わっていて、精神的ストレスが自律神経を乱すことがあります。また外気で体を冷やすこと、冷たいものを常食すること、昼夜逆転の生活、怪我などでも乱れます。自律神経が乱れると動悸、息苦しさ、吐き気、便秘・下痢、冷え・発熱など、多様な症状が出現する可能性があるのです。
病院の治療でも改善されなかった自律神経失調症
では当治療室の自律神経失調症の症例をご紹介します。高校2年生の16歳の男子が母親に付き添われて来院されました。高校2年生に上がってから食欲がなくなり、吐き気、眩暈、頭痛、熱感、不眠症状が現れました。そのことで学校も休みがちだということでした。
病院を受診しましたが、検査で身体には特に問題がないとのことで、うつ症状と診断されました。病院からはドグマチールやソラナックスが処方され、2か月ほど服用していましたが症状の改善がみられませんでした。
問診で自律神経失調症の原因の糸口が見つかる
当治療室で問診すると、小学校5年生の時にインフルエンザに罹り、それ以降体調を崩していたことが分かりました。そしてインフルエンザが治っても腹痛が治らずに、結局6年生に上がったものの、1年間登校できなかったのです。
体を診ると、体幹部はほのかに発熱している状態でしたが、下肢は完全に冷え切っていました。特徴的なのが腹部で、お臍の左に大きなコリがありました。どうもこのお腹のコリが自律神経を乱して多様な症状を出している原因のようでした。
腹部のコリをとることで改善に向かう
治療は冷えている内臓を背部のツボを使って整えることにしました。週2回ほどの治療を行い、4回ほどでお臍の左のコリが緩んでくると、主だった症状が徐々に消えていきました。
しかし食欲が今一つ戻らず、またお腹のコリも完全には無くなっていないことから、鍉鍼(ていしん)という刺さない特殊な鍼で直接コリを処置したところ、食欲が一気に出てきて他の症状も完全に無くなりました。
約2カ月に渡る11回の治療でしたが、最後の治療日に会った時には、テニスで真っ黒に日焼けして精悍な青年になっていました。初めて来院された時の青白い、今にも倒れそうな姿が想像できないほどでした。
自律神経失調症は様々な原因から起こる
さてこの症例のように、胃腸は自律神経と密接な関係があります。この症例ではインフルエンザがきっかけで腸に問題が生じ、自律神経が乱れて多様な症状で苦しんでいました。病院で処方されたドグマチールやソラナックスが効かなかったのは、このような病変が腸にあったためと考えられます。自律神経が乱れる原因は多様です。詳細な問診と丁寧な体表観察で病の原因を正確に捉えることが大切なのです。