10代の女性。
彼女の摂食障害は、一年半前のある日の「教師のひとこと」から始まりました。
それまで特に気にしていなかった体型に過敏になり、次第に食べることを拒むようになっていったのです。
体重はみるみる落ちていき、生理も止まりました。やがて体重は危険域に達し、彼女は2ヶ月間の入院を余儀なくされました。
退院後も低体重の状態は続き、体の節々の痛み、頭痛、不眠といった不調が彼女を苦しめていました。
鍼灸治療との出会い
そのような中で始まったのが、鍼灸治療です。
治療を継続するうちに、彼女の様子に少しずつ変化が見え始めました。
まず精神的な落ち着きが出てきたこと。
そして、緊張や不安に満ちていた表情に、次第に柔らかさが戻ってきました。
体重も徐々に増え、ようやく低体重の状態を脱することができました。
鍼灸治療を3ヶ月ほど続けた時点で、心身ともに安定が見られるようになったのです。
摂食障害と脳の機能的変化
摂食障害は「心の病」として理解されることが多いですが、実は脳機能との深い関わりが指摘されています。
具体的には──
• 認知制御(背外側前頭前野)
• 情動制御(扁桃体、海馬)
• 身体的イメージの知覚(紡錘状回)
• 視空間認知(後頭頭頂野、小脳)
これらの領域間の機能的結合性が変化していることが、近年の研究で明らかになっています。
「食べたいのに食べられない」
「食べたくないのに過食してしまう」
こうした矛盾した食行動も、脳のネットワークの乱れから生じると考えられているのです。
頭皮鍼がもたらす可能性
こうした脳機能の乱れによる摂食障害に対しては、一般的には精神科による精神療法や薬物療法が用いられます。
しかし、頭皮鍼も脳機能の調整に有効な手段として注目されています。
頭皮鍼は、脳の特定の機能領域に対応する頭部の皮膚を刺激することで、神経活動に変化をもたらす技術です。
西洋医学の研究においても、脳の血流やネットワーク結合性に影響を与える可能性が報告されています。
早期治療の重要性
摂食障害は、精神疾患の中でも致死率が6〜20%と極めて高い疾患です。
そのため、何よりも重要なのは「早期の対応」です。
精神科での専門的治療が第一の選択であることに変わりはありませんが、
補完的な手段として鍼治療、特に頭皮鍼を取り入れることは、非常に有効なサポートとなり得ます。
彼女のように、医療と鍼灸の両方を組み合わせることで、心と体の回復が進むケースは少なくありません。
摂食障害に悩むご本人・ご家族へ
「どうしたらいいかわからない」
「話してもわかってもらえない」
そんな声を、私たちは何度も聞いてきました。
その声に、東洋医学としてできることがあります。
もしも今、苦しさの中にいるのなら、どうか一人で抱え込まないでください。
鍼灸は、目に見えない心の変化にも、そっと寄り添う力を持っています。