4. 親の愛情と性格形成 ―ストローク―
(1)親からのストロークと身に付ける信念
PACのバランスが良いと、基本的には人生が生きやすくなります。人間関係が良好になりますし、自分のやりたいことにも積極的に取り組めるからです。人生の場面々々に適切な自我状態で対応することができます。
Aで冷静に仕事に対応し、Pで子供や部下を育てます。また余暇にはCで子供のように楽しむことができます。しかし多くの場合、エゴグラムには偏りがあります。これはなぜでしょうか。これには親との関係が大きく影響しています。
私たちの自我が芽生えるのは大体2歳位です。そして3歳位までには、私たちの性格の骨格が出来上がるといわれています。ですから生後3歳まではバランスの良い人格を育てるのに非常に大切な時期といえます。
この頃の子供はとても不安定です。特にお母さんがいつも側にいて、スキンシップや言葉かけ、あるいは微笑みや優しい眼差しを向けることが必要です。このような相手の存在や価値を認める刺激を「ストローク」といいます。
子供は肯定的なストロークを親から受けることで、「自分は愛されている」「自分には価値がある」と感じることができます。そして自分に自信を持つことができるのです。このような子供は「自分はOK」「相手もOK」という自他に対する信頼の基礎になる「基本的信頼」を身に付けます。これがPACをバランスよく育てていく礎になります。
ところが親の愛情が十分でなく、否定的なストロークを受け続けると、子供は「自分は愛されていない」「自分には価値がない」と感じてしまいます。そうすると子供は、親の愛情を得るために自分の本当の気持ちを抑えることで、親の愛情を求めるようになるのです。
このような子供は①「自分はOKでない」「相手はOK」、②「自分はOK」「相手はOKでない」、③「自分はOKでない」「相手もOKでない」という信念を身に付けます。このような信念がPACのアンバランスを生んでいくのです。
(2)肯定的ストロークと否定的ストロークをまとめると以下のようになります。
◆肯定的ストローク
なでる、抱きしめる(身体的)、微笑む、ほめる、よく聴く(言語的)、勉強なんてできなくてもいるだけでいい(無条件)、勉強できるから好き(条件つき)
◆否定的ストローク
殴る、つねる、仕事を与えない(身体的)、悪口を言う、嘲笑する、欠点を非難する(言語的)、存在自体が嫌、何も良いところがない(無条件)、遅刻する君はだめだ、勉強しない子は良くない、言うことを聞かないから嫌い(条件つき)
(3)否定的なストロークを受けた子供が身に付ける信念と、それがその子をどのような態度にさせるかを以下にまとめます。
①「自分はOKでない」「相手はOK」の信念
劣等感、憂鬱、自己卑下、幸せな人が許せない、支配的、権威的なもの(地位、名誉、金)への憧れ、権威・支配者への依存。
②「自分はOK」「相手はOKでない」の信念
支配的、疑い深い、人を嘲笑する、人を切り捨てる、攻撃的、責任転嫁、反社会的、野心的。
③「自分はOKでない」「相手もOKでない」の信念
無価値感、絶望感、虚無感、愛情や他者からの注目を拒否する、殻に閉じこもる、愛情をしつこく確かめる。
以上のように、親の愛情は子供の他人に対する信頼感に大きな影響を与えます。親から否定的なストロークを受けた子供は、自分をダメな人間だと思ってしまいます。その信念のために成長した後も、他者に対して依存的になったり、威圧的になったり、また自己の無価値感から人生に対して絶望してしまうのです。
しかしこのような信念を身に付けていたとしても、人は変わることができます。それにはまずそのような信念を自分が身に付けていることに気づくことが大切です。多くの場合それらの信念は無意識となって思考や行動に現れます。無意識にやっていることですから変えることはできません。無意識の信念を意識化したときにはじめて変えることができるのです。
「何故人生で同じ問題を繰り返すのか?」Ⅰ ―無意識の行為 ゲーム分析― につづく。