長寿とタンパク質、炭水化物の関係については複雑な相互作用が存在します。近年の研究では、タンパク質の摂取が寿命に与える影響が注目されており、一方で「ブルーゾーン」と呼ばれる長寿地域の食事パターンは、タンパク質の摂取量が少なく、炭水化物が豊富であることが特徴です。はたしてタンパク質や炭水化物は寿命にどのような影響を与えるのでしょうか。
タンパク質と寿命の関係
近年の研究によると、特に高齢者においては、適切なタンパク質の摂取が健康に長寿をもたらすことが示されています。タンパク質は筋肉の維持、免疫機能の向上、代謝の活性化など、さまざまな面で健康を支えます(1)。例えば、高齢者に必要なタンパク質量は、活動量や筋量の維持に重要であるとされています。
ブルーゾーンの食生活の特徴
一方、ブルーゾーン地域の研究では逆の結果になっています。「ブルーゾーン」とは100歳人(センテナリアン)が多く暮らす地域のことで、イタリアのサルデーニャ島、日本の沖縄、アメリカのロマリンダ、コスタリカのニコジャ半島、ギリシャのイカリア島の5箇所を指します。
例えば沖縄では、タンパク質よりも炭水化物に重きを置いた食事が健康を支えています。沖縄の人々は、伝統的に高炭水化物(特にサツマイモなど)を摂取し、植物ベースの食事が一般的です。この食生活は、がんや心血管疾患などのリスクを下げる生理的反応を促すことが実証されています。そのため、沖縄の長寿の背景には「高炭水化物食」が重要な役割を果たしています(2)。
ブルーゾーンの人々の食生活で共通していることは、ウシやブタなどの肉は月に数回、特別な日にしか食べないこと、そしてカロリーが少ないことです。ある研究によるとカロリーを30%制限すると、多くの実験動物たちの寿命が伸びたとの報告があります。昔から「腹八分」が健康にいいといわれていますが、科学的にも支持されています。
日本における戦後の長寿化
日本においては、戦後に食料が豊富になったことで長寿化してきた事実があります。戦前よりもタンパク質を豊富に摂取することができた結果、長寿化した可能性が考えられます。この現象はどのように理解すればいいのでしょうか。
戦後にタンパク質の摂取が増加したことは、肉類や魚介類の摂取が増えたことを意味しますが、これは全体的な食生活の改善を伴っていることが多いです。栄養が豊かになることにより、健康状態が改善され、結果として寿命が延びたと考えられます。このため、タンパク質の増加は寿命の伸びに寄与する一因とされているものの、全体的な食生活の質が依然として重要だと考えられます(3)。
矛盾の説明
つまりタンパク質と炭水化物は一面的な評価でなく、バランスの取れた食事が長寿に重要であることが示唆されます。たんぱく質が特定の条件では寿命を延ばす一方、他の文化や地域での食事法、特に炭水化物中心の食事が同様の効果をもたらす場合もあるため、単純にタンパク質の摂取量だけで寿命を論じることはできません。各地域の食文化やライフスタイル全体が関与していることが、この矛盾を解消する鍵となります。
ある研究者は若い年代では炭水化物中心の食生活が適しており、高齢者はタンパク質を増やすことが適しているといいます。各年代に必要な栄養素があるのかもしれません。
長寿への道
もちろん長寿は食生活だけでは語れません。最後にブルーゾーン研究から長寿の人々の習慣を紹介します。
① 適度な運動を続ける。
② 腹八分で摂取カロリーを控える。
③ 植物性食品を食べる。
④ 適度に赤ワインを飲む。(日本人には合わない可能性あり)
⑤ はっきりした目的意識を持つ。
⑥ 人生をスローダウンする。
⑦ 信仰心を持つ。
⑧ 家族を最優先にする。
⑨ 人と繋がる。
(ダン・ビュイトナー『ブルーゾーン セカンドエディション』祥伝社. 2022)