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鍼灸治療はなぜ効果があるのか?その作用と科学的根拠


現代医学と東洋医学の架け橋として、再評価されている鍼灸。その効果のメカニズムと、動悸・過呼吸・息苦しさといった症状に対する可能性について、最新の研究や臨床報告をもとに解説します。

鍼灸は「筋肉・構造・臓器」をつなぐ治療法

鍼灸は単に「ツボを刺激する」だけではなく、縮んだ筋肉をゆるめることで身体全体の構造を整える作用があります。たとえば、背部の筋肉の緊張が内臓を支える力を低下させ、結果として臓器機能の不調を引き起こすことがあります。

鍼は、過緊張した筋肉や結合組織に直接アプローチし、筋緊張を緩和。これにより、骨格や内臓の位置が整い、自律神経の安定や内臓機能の正常化につながるのです。

神経に働きかける:鎮痛と自律神経の調整

鍼灸刺激は、末梢神経を通じて脊髄・中枢神経系に信号を送り、痛みを抑える神経伝達物質(エンドルフィンやセロトニンなど)の放出を促します。

また、鍼刺激によって自律神経系が調整され、交感神経と副交感神経のバランスが改善されることが、複数の研究で確認されています。

参考:NIH(米国国立衛生研究所)
National Center for Complementary and Integrative Health

内分泌に働きかける:ホルモンの調整作用

鍼灸は視床下部―下垂体―副腎系(HPA軸)に作用し、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を調整する可能性が示唆されています。

慢性ストレスや不眠、月経不順といった症状が改善する背景には、このホルモン調整作用が関与していると考えられます。

参考文献: Eshkevari L. et al. “Acupuncture Blocks Cold Stress-Induced Increases in the Hypothalamus-Pituitary-Adrenal Axis in the Rat.” Journal of Endocrinology, 2013.

動悸・過呼吸・息苦しさへの鍼灸のアプローチ

ストレス、不安、過労などにより現れる「動悸」「過呼吸」「息苦しさ」は、検査では異常がなくてもつらい症状として日常生活に影響を及ぼします。

東洋医学の理解:心・肺・腎の機能低下

  • 心(しん):精神活動や血の運行を司り、動悸・不眠に関係
  • 肺(はい):呼吸を主り、過呼吸や浅い呼吸と関係
  • 腎(じん):先天の気を司り、呼吸の深さや安定感に関与

鍼灸では、これらの経絡(心経・肺経・腎経)を整えることで、呼吸と循環を正常化し、不安感を鎮めていきます。

現代医学的理解:交感神経の過活動の抑制

これらの症状の多くは、交感神経の過剰興奮によって引き起こされます。鍼灸は、副交感神経を優位に導くことで、自律神経系のバランスを回復させる働きがあります。

胸郭や横隔膜周辺の筋緊張を緩めることで、呼吸のしやすさが回復し、身体的にも安心感を得られるようになります。

研究と臨床例

以下の研究が、鍼灸の効果を支持しています:

鍼灸の効果を科学的に検証する難しさと可能性

鍼灸は個別性が高く、患者の体質・病態・環境によって手法が異なるため、ランダム化比較試験(RCT)などの西洋医学的評価法では測りきれない面があります。

しかし近年では、fMRIや心拍変動(HRV)、血中ホルモン濃度測定など客観的評価が進み、徐々に科学的なエビデンスが蓄積されています。

まとめ

  • 鍼灸は筋肉・神経・内分泌系に多面的に働きかける全体調整法。
  • 動悸・息苦しさ・過呼吸など「自律神経系のゆらぎ」からくる症状にも効果が期待できる。
  • 現代科学でもそのメカニズムが少しずつ明らかになってきている。

現代医学の補完療法として、また全人的なケアの一環として、鍼灸は今後ますます重要な役割を果たすと考えられます。