心と体の声に耳を傾けて ― 「五月病」とは?
新しい環境でのスタートを迎える春。入学、就職、異動など、4月はがんばることが多い季節です。けれど、その緊張がふっとゆるむ5月の連休明け頃から、気持ちが沈んだり、体が重だるく感じられたりする方が少なくありません。そんな心と体の変化を、「五月病」と呼ぶことがあります。
これは医学的な病名ではありませんが、軽いうつのような状態や、自律神経の乱れが背景にあると考えられています。
よく見られるサイン
- 気分が晴れず、やる気が出ない
- 体がだるくて、眠気が強い
- 食欲が落ちたり、胃腸の調子が悪くなる
- 集中できず、なんとなく不安になる
季節と心身のバランス ― 自律神経の影響
春から初夏にかけては、寒暖差や気圧の変化も大きく、実は体にとって負担のかかる季節です。新しい生活に一生懸命適応しようとがんばった心と体が、ふと立ち止まりたくなる。それが五月病の背景にある「自律神経の乱れ」です。
鍼灸でやさしく整える ― 五月病へのアプローチ
東洋医学では、心と体をひとつの流れと考え、「気・血・水」の巡りを整えることを大切にしています。鍼灸はその流れにやさしく働きかける療法です。
近年では、現代医学の研究でも、鍼灸が自律神経やホルモン分泌に影響を与えることが明らかになってきました。
鍼灸がもたらす心身への働き
- 自律神経のバランスを整える
鍼刺激によって、交感神経と副交感神経のバランスが調整されることが研究で報告されています。 - ストレスホルモンの抑制
鍼は、ストレスによって増加するコルチゾールの分泌を穏やかにし、心を落ち着ける働きを持ちます。 - セロトニンやドーパミンの調整
気分を支える脳内ホルモンに働きかけることで、気持ちの落ち込みをやわらげる可能性があります。
からだの声を聴く ― 代表的なツボとその働き
その方の体質や症状に合わせて、全身を整えることが鍼灸の基本です。なかでも、五月病によく使われる代表的なツボをご紹介します。
- 百会(ひゃくえ):頭の緊張をゆるめ、心を穏やかに
- 内関(ないかん):不安感や吐き気に
- 神門(しんもん):ストレスによる不眠や緊張に
- 肝兪(かんゆ)、脾兪(ひゆ):気の巡りや消化を助ける
心と体にそっと寄り添いながら、自然な回復力を引き出すお手伝いをしていきます。
こんな方に、鍼灸をおすすめします
- 春になってから、なんとなく気分が晴れない
- 睡眠の質や食欲が気になっている
- 病院では「異常なし」と言われたけれど、つらさが残っている
- 薬に頼りすぎず、自然な方法で整えたい
おわりに ― 「未病」のうちに手を差し伸べる
五月病は、「まだ病気とは言えないけれど、なんとなく不調」を感じる“未病”の状態です。そんなときこそ、鍼灸の力が役立ちます。
「ちょっと疲れてるな…」と感じたら、自分をいたわる時間を。鍼灸は、そんなあなたの心と体にやさしく寄り添います。
参考文献
• Takayama M, et al. (2010). Autonomic Nervous System Response to Acupuncture. J Altern Complement Med.
• Eshkevari L, et al. (2013). Acupuncture Blocks Stress-Induced Increases in HPA Axis Hormones. J Endocrinol.
• Han JS. (2004). Acupuncture and endorphins. Neurosci Lett.