Go to Top

尿閉(尿が出ない)の鍼灸治療


病院で漢方薬を処方されても尿が出ない

先日、尿が出ないという女性が来院されました。このような症状を「尿閉」といいます。膀胱には尿が溜まっていますが尿が出ない状態です。尿自体が産生されない「無尿」とは区別します。

1週間前から徐々に尿が出なくなったとのことで、現在は体に水分が溜まってしまい浮腫みも出現していました。病院で診察を受けましたが泌尿器系には特に問題がないとのことで、漢方薬の「五苓散」を処方され様子をみることになりました。

五苓散という漢方薬は東洋医学でいう「脾の蔵」と「腎の蔵」に主に作用するお薬で、「尿が出ない」「体が浮腫む」といった症状がある場合によく処方される漢方薬です。しかし残念ながら、五苓散を飲んでも尿閉は改善されませんでした。こうしてプラナ松戸治療室に来院されたのです。

極度に冷えた「肺の蔵」

診察してみますと「脾」や「腎」にも冷えはありましたが、私が感じたのは「肺の蔵」の極度の冷えでした。

東洋医学では「脾」で体に必要な水分を作り出し全身に運搬すると考えます。そして不必要な水分は「腎」が排泄するのです。ですから「脾」や「腎」の機能が低下すると尿が出ないという症状が出てきます。

しかし水分代謝に関わる「蔵」はそれだけではなく、呼吸器系である「肺の蔵」も関わっています。「肺」にも体中の水分をスムーズに巡らせる作用があるのです。

この女性の場合は「肺」が特に冷えており、そのために水分代謝が機能せずに尿閉になったと考えました。そこで「肺」を中心に冷えを取ることにしました。また水分の通り道である「三焦」にも多少の異状が出ていたため調整しました。

3日後に来院して頂き様子を伺うと、鍼灸治療後に劇的に良くなり尿が出ているとのこと。体を診ると浮腫みも取れ、「肺」もだいぶ温まっていました。問題がなさそうなので第2診で治療は終了になりました。

「肺」が冷えた原因は・・・

問題は何故こんなにも「肺」が冷えてしまったのかということです。本人に伺っても呼吸器を冷やした覚えはないとのこと。最近は気温も高くなり外気で呼吸器を冷やすこともないはずなので、私も頭を抱えました。

しかしフッと閃きで「ジョギングなどをしませんでしたか?」と伺ったところ、最近ジョギングを始めて2~3回走ったとのこと。そういえばその後から尿が出なくなったとのことでした。これには合点がいきました。慣れないジョギングで「肺」を酷使することで「肺」のエネルギーを使ってしまい、そのせいで冷えてしまったのです。

もう一つの問題は何故「五苓散」が効かなかったのかです。私は漢方薬は専門ではないのですが、たぶん五苓散が主に「脾」と「腎」に作用する漢方薬だからでしょう。「肺」の冷えまでカバーできなかったために、尿閉が改善されなかったのだと思います。

このように「尿が出ない」という症状の背景には多様な原因が考えられます。病を改善させるには東洋医学においても、やはり適切な診断が必要なのです。