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不眠症と多相睡眠


日本では、睡眠は午後11時前後から午前6時前後にかけて取られるのが一般的です。このような睡眠パターンを「単相睡眠」といいます。

この単相睡眠は生物学的なものではなく、照明器具が発明された結果できた人工的な睡眠パターンです。本来動物は「多相睡眠」が自然であり、ヒトも人口照明がない環境では、2相睡眠になり夜中に一度目が覚め、その後再び眠りにつきます。

人口照明がなかった頃の日本でも、夜中に一度目を覚まして近所の人とおしゃべりをし、その後再び睡眠を取っていたそうです。

スペインの「シエスタ」は午後1時から4時の昼休みに午睡を取ります。これはヒトの持つサーカディアン・リズム(概日リズム)からしても理にかなった睡眠です。

サーカディアン・リズムとは生物の持つ生理機能の概日周期のことです。生物の生理機能も1日の中で高低しているのです。このリズムが狂うと私たちは体の不調を感じます。その典型が「時差ぼけ」です。

サーカディアン・リズムは、午前中は高く、正午頃にピークがきます。その後、午後2~3時頃にかけて低下していきます。午後4時頃から再び高まっていきますが、就寝時間に向けて再度低下します。就寝中の2~3時が最低になります。

スペインのシエスタでは、サーカディアン・リズムが低下する午後の時間に睡眠を取ります。この時間は交通事故などが多くなるともいわれ、仕事上のミスも多くなる時間帯です。ですからこの時間帯に睡眠を取ることは理にかなっているのです。

このように私たちの睡眠パターンは単相睡眠ではなく、多相睡眠の方が生物学的に適しているのです。

不眠症で悩まれている方たちは、夜に眠れないことで苦しんでいます。しかし本来の私たちの体が、多相睡眠が適しているのであれば、夜中に多くの睡眠時間を取ることに拘る必要はありません。眠れる時にこまめに睡眠を取ればいいのです。

不眠症の問題は夜中に眠れないことよりも、むしろそのことで思い悩んでストレスになっている精神面です。

ところで東洋医学では睡眠は「血(けつ)」の循環と関わります。

「血」は昼間に体中を巡り身体を栄養し温め、夜は「肝の蔵(かんのぞう)」に戻って「血」を養います。身体の「血」が「肝の蔵」に戻ると、体は鎮まり眠りにつきます。もしも「肝の蔵」に問題があると、「血」が「肝の蔵」に戻れず、その結果眠れなくなるのです。また夜に「肝の蔵」で「血」が養われないために、体は冷えていきます。

不眠症の方の体を診ると「肝の蔵」の状態を表す背中のツボが腫れあがり、全身が冷え切っています。そして「肝の蔵」を調整し、「血」が「肝の蔵」に戻れるようになると、体が温まり眠れるようになります。

「肝の蔵」は血、筋肉、目、怒りなどと関連が強い「蔵」です。ストレスを溜め込んだり、目を酷使したり、運動をし過ぎて汗をかき過ぎると「肝の蔵」に問題が出てきます。

私のこれまでの臨床経験では、不眠症の原因として仕事や家庭上での精神的ストレスが最も多く、また眠れないことがさらにストレスとなって悪循環を呈しているケースがほとんどです。

これまでみてきたように睡眠は私たちが信じてきたような単相睡眠ではなく、多相睡眠の方が理にかなっています。眠れないことでストレスを抱えないで、眠れるときにこまめに睡眠を取るという意識改革が必要です。

ご自身で「肝の蔵」を整え「血」の循環を良くするには、「半身浴」や「食事の節制」、「適度な運動」などで体を温めることを実践すると良いでしょう。

こまめに睡眠を取り、体を温めることで次第に「肝の蔵」の状態も良くなっていきます。そしていつの間にか不眠症のことも忘れていることでしょう。