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うつ病のTMS磁気刺激治療と東洋医学


うつ病の磁気刺激治療と東洋医学に基づく鍼灸治療には類似性があります。どちらとも体の左側への刺激を重視しているのです。

TMS(磁気刺激治療)は背外側前頭前野を回復させる

磁気刺激治療はTMS(Transcranial Magnetic Stimulation)と呼ばれ、うつ病の急性期に効果があるとされています。その方法は背外側前頭前野に磁気治療器で刺激を加えます。背外側前頭前野は認知や意欲、判断に関する領域であり、また扁桃体と呼ばれる恐怖や不安、悲しみなどを司る領域にブレーキをかけています(図1)。


図1. 背外側前頭前野と扁桃体 (新宿ストレスクリニックより転載)

うつ病ではこの背外側前頭前野の活動が低下することで認知、意欲、判断の働きが低下し、さらにブレーキが外れることで扁桃体が過剰に働き、強い恐怖や不安、悲しみを感じるとされています。TMSでは背外側前頭前野に磁気刺激を加えることでこれらの機能を回復させようとするのです。

磁気刺激は左側の背外側前頭前野が基本

磁気刺激の方法には2つあります。ひとつは左背外側前頭前野に高頻度の磁気刺激を加える方法、もう一方は右背外側前頭前野に低頻度の磁気刺激を加える方法です。しかし治療機器として薬事承認されている国では左背外側前頭前野への刺激で承認されています。したがって左背外側前頭前野の刺激が基本となります。

鍼灸では左足太陽膀胱経を刺激する

TMSでは左側の背外側前頭前野への磁気刺激が基本でしたが、東洋医学の経絡でも左側に異状がみられ、鍼灸でも左側の刺激が重要になります。

うつ病で重要な経絡は足太陽膀胱経です。足太陽膀胱経は頭から背中、足に向かって左右両側を走行する「気」の流れです(図2)。うつ病では左側の足太陽膀胱経に異状が出ています。

 
図2. 足太陽膀胱経の流注(一般社団法人 国際伝統中医学協会より転載)

特に後頭下の第二頚椎付近は強くこわばっていて、経験的にこの部位が強くこわばると、頭がうまく働かない、頭の中に霧がかかっているよう、頭が重い、寝ても疲れが取れない、胸が苦しいなどの症状が出てきます。そして鍼灸で左足太陽膀胱経を調整すると、これらの症状が治まっていく傾向にあります。左足太陽膀胱経の異状はうつ病だけでなく、パニック障害や不安障害、認知症のケースでもみられることから、脳の高次機能と関係している可能性があります。

神経と経絡は異なる

ところで大脳半球は脳梗塞などで左側が障害されると反対側の右半身不随に、右側が障害されると左半身不随になります、これは大脳半球から出ている運動神経のほとんどが延髄下端で交差するからです。したがって左背外側前頭前野に異状があれば右側の足太陽膀胱経に異状が出るはずです。しかし実際は左側の足太陽膀胱経に異状が出ています。これは東洋医学の「気」の流れ道である経絡と神経の走行が異なることを示しており興味深い現象です。

まとめ

以上のようにTMSと東洋医学には類似性があり、また相違点があります。類似性はそれぞれ脳の左側に刺激を入れるという点であり、相違点は直接脳に刺激を入れて活性化させる方法と脳に対する「気」の流れを改善させるという点です。これは現代医学的アプローチと東洋医学的アプローチの違いとも言えます。

このようにうつ病にはさまざまなアプローチがありますから、けっして諦める必要はありません。あなたに適した方法を適宜試してみて、生きる力を取り戻していって下さい。

※ 当治療室では鍼灸によるうつ病治療を行なっております。TMS治療は行っておりません。