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東洋医学と食


食養生には様々な主張がある。菜食が良いとか、肉食が必要であるとか、糖質を制限するために穀類はだめであるとか諸説あるが、東洋医学ではどのよう考えられているのであろうか。東洋医学、ここでは中国医学を基本にした考え方を紹介しよう。

◻️中国医学の食養生

中国医学では基本的になんでも食べて良い。肉でも野菜でも穀類でも食べて構わない。肉の種類も牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉なんでも可である。ただしその時の体の状態に合わせることが大切である。

例えばエネルギー不足である「虚証」の状態には、積極的に肉を食べさせることがある。気が少ない状態である「気虚」や血が少ない状態である「血虚」の時などは、牛肉や動物のレバーを食べさせて「気」や「血」を増やし、活力を回復させようとする。

しかし反対に気血水の流れが滞っている「実証」では肉類を控えることが多い、例えば気の滞りである「気滞」や血の滞りである「瘀血」、水の滞りである「痰湿」では、肉類は控えて野菜を多くとることで気血水の流れを回復させようとする。

このように中国医学ではその時の状態によって食べ分けるのであり、肉や穀類が絶対的にダメだとは言わない。その時の状態をみて相対的に判断するのである。

◻️エネルギー過剰で気が滞っている私たちの体

しかしながら今日の私たちの体は、精神労働による偏った体の使い方で気血が滞り実証を呈していることが多く、そのせいで気血が巡らずに気虚や血虚になっているケースが目立つ。

また気血のエネルギーが足りている人が多く、むしろ肉などの精の強いものを食べ過ぎてエネルギーが滞っているケースが多いのである。

したがって私たちの体には、現実的にはそれほど多くの肉類は必要無いことになる。むしろ穀類や野菜、海藻などが中心で、それに少量の魚を加える程度の食事が理想的と言えるだろう。

いわゆる純和風な食事である。このような食事を腹8分目で取る。

◻️何でも食べられる心と体が健康である

食養生であれがダメとかこれがダメといった消極的な考え方には問題があって、何でも食べられる健康的な心と体を持つことが大切だろう。

私たち日本人の祖先は8~3万年前に日本列島に住んだと言われている。氷河期が終わる頃の時代には主食はマンモスや鹿などの生肉であった。その後、気温が暖かくなるにつれて木の実などが取れるようになり食が広がっていった。

貝や魚などの海産物をいつから食べるようになったか定かではないが、多様な食への挑戦を通して環境に適応することで強く生き延びてきたのである。

様々な食材を禁止する思想は私たちの心と体を弱らせ、私たちの豊かな人生を狭めてしまうことに繋がるのではなかろうか。何でも食べられる心と体を目指すべきなのである。

◻️東洋医学は積極的な食養生

もちろん状態によっては食を制限したほうが良い場合もある。

中国医学には「肥甘厚味」といって油っこいもの、甘いもの、味が濃いものは「痰湿」や「熱」を生むために過食を戒めており、また「過食生冷」といって生ものや冷たいものも「痰湿」や「冷え」を生むとして食べ過ぎに注意を促している。とくに湿熱タイプや脾虚の人はこれらを制限した方が良い。

ところでアトピー性皮膚炎や自家感作性皮膚炎、子宮筋腫や子宮内膜症、卵巣嚢腫、固形性のガンなどは肉や魚、卵、乳製品、砂糖、コーヒー、冷たいものなどを制限し、植物中心の食事に変えると症状が好転することが食事療法やゲルソン療法などで知られている。

このような場合には食を制限して、鍼灸や漢方治療を加えるとより良い。そして症状が良くなったら、食事の取り方を改め、体質にあった食事に改善する。多くの場合、肉や卵、糖分、乳製品、冷たいものなどを取り過ぎた生活をしているからだ。

このように不適切な食を制限することで病気が改善に向かうことは事実であるが、東洋医学の食養生では体質やその時々の状態によって相対的に何を食べるかを決めるのであり、あらかじめ絶対的な禁止事項を設けるような消極的なものではない。むしろ積極的な食養生と言えるだろう。